アクセスジャーナルの動画を見ていると、「あっ、また攻めた」と思う瞬間があります。
山岡編集長は、ときどき「断定はできないけれど」と前置きをしてから、それでも状況から見ればこの人たちが関わっているとしか思えない、と一歩踏み込んで語ります。私はこの語り口が好きです。
そんな編集長の記事のなかで、私が少しだけ立ち止まったものがあります。買取専門店「買取大吉」を運営する株式会社エンパワーと、青山清利氏という人物の関係を取り上げた、アクセスジャーナルの一連の記事です。
記事を読んで私が自分で見てみたこと、わかったこと、わからなかったことを、編集者として正直に書いておきます。そのうえで、読者として思うことを書き添えます。
訴えられても書き続ける。この攻めが、山岡編集長のいちばんの魅力だと思う
最近の動画で印象的だったのが、海外FX「GEMFOREX」を追いかけた回です。
編集長はGEMFOREXの出金停止や国会議員への政治献金などを連続して報じ、3回目の記事で、首謀者と思われる4人の実名と写真を載せました。編集長によれば、その約2時間後に、サイトがサイバー攻撃を受けたそうです。
動画の中で編集長は、何度か「断定はできない」と断りを入れています。そのうえで、タイミングから見れば、攻撃したのはやはり彼らではないかと強く疑っている、という趣旨を、はっきり口にしています。
証拠が出そろうのを待っていたら、書けないことがある。だから前置きを置きつつ、ぐっと踏み込む。これが編集長の真骨頂だと私は思っています。大手の報道機関でも、小さなネットメディアでも、ここまで踏み込んで語る人は、いまの日本にそう多くありません。
この攻めには代償もありました。編集長は動画で、名誉毀損などの民事訴訟を100件はくだらない数、戦ってきたと語っています(参考:民事訴訟100件はくだらない裁判を戦ってきたアクセスジャーナル・山岡編集長)。別の動画では、第一審で人生初の「謝罪文掲載」判決を受け、控訴も棄却されたことを明かしています(参考:名誉毀損裁判100回は戦った経験を持つジャーナリスト30数年の山岡編集長)。
それでも編集長は書き続けています。これだけ訴えられても折れない。その粘り強さが、私が編集長のファンを続けている一番の理由です。
編集長への思いは、別記事アクセスジャーナル山岡俊介編集長を応援する理由でもう少し詳しく書きました。
アクセスジャーナルが取り上げた、エンパワーと青山清利氏の記事を読んで
GEMFOREXの件のように、編集長は実名を挙げて踏み込むことをためらいません。株式会社エンパワー(買取大吉の運営会社)と青山清利氏の関係を取り上げた一連の記事も、そうした踏み込んだ記事のひとつです。私が青山清利という名前を知ったのも、これらの記事でした。
ただ、読み終えたあと、私はいつものように「そうだったのか」と膝を打つことができませんでした。書かれていることが本当かどうかを、読者の側から確かめる手がかりが、ほとんど見つからなかったからです。
そこで、ひとりの編集者として、自分にわかる範囲のことを見てみることにしました。
エンパワーの会社概要に、青山清利氏の名前はあるのか
まず見てみたのは、株式会社エンパワーのホームページにある会社概要です。
役員の欄に載っているのは、代表取締役の増井俊介氏と取締役2名で、青山清利氏の名前は見当たりませんでした。また、顧問には元警察庁警視監の伊藤茂男氏という人が就任しているそうです。
後で知ったのですが、警視監というのは、警察の階級で上から2番目にあたる立場なのだそうです。警察の幹部だった人を顧問に迎えるのは、会社として法令を守る姿勢を示す意味がある、と聞いたこともあります。
会社概要からわかるのは、誰が経営を任されているかです。一方で、誰が株を持っているかは、会社概要には書かれていません。そして株主が誰かは、会社の外からはなかなか確かめられないものでした。
会社概要に、青山清利氏の名前は見当たらない。そして株主が誰かは、会社の外にいる私たちには、ほとんど確かめようがない。これが、一読者の私にわかったことのすべてです。
買取大吉と青山清利氏の話は、なぜ読者には確かめようがないのか
株主が誰かを知る手がかりとして、まず思い浮かぶのが株主名簿です。調べてみると、株主名簿は、原則として会社の外にいる人が見られるものではありませんでした。
会社法125条(株主名簿の備置き及び閲覧等)
- 条文の中身
- 株式会社は、株主名簿を本店(株主名簿管理人がいる場合は、その営業所)に備え置かなければならない(1項)。株主と債権者は、会社の営業時間内であれば、請求の理由を明らかにしたうえで、いつでも株主名簿の閲覧や謄写を求めることができる(2項)。会社は、権利の確保や行使のための調査以外の目的である場合などを除き、この請求を拒めない(3項)。親会社の株主などは、裁判所の許可を得て同じ請求ができる(4項)。
- 読んで思ったこと
- 株主名簿を見せるよう求められるのは、株主と債権者、それに裁判所の許可を得た親会社の株主などに限られています。私のような一般の読者には、株主名簿を見せてもらう権利がありません。
- 条文
- e-Gov法令検索(会社法)
もっとも、株主が誰かが外から一切わからない、というわけでもないようです。会社が法務局に手続きをするときに出す書類や、裁判所にある訴訟の記録から、手がかりが得られる場合もあると聞きました。ただ、関係者でないと見られなかったり、記録の閲覧が制限されていたりと、私のような一読者がそこまでたどるのは簡単ではありません。
つまり、会社の株を誰が持っているかという話は、どちらの言い分であっても、会社の外にいる読者には自分で確かめる手段がほとんどありません。買取大吉と青山清利氏をめぐる話で、私が立ち止まった理由はここにあります。
報道の自由と「確実な資料」——2つの最高裁判決
こうしたとき、報道はどこまで踏み込んでよいのか。名誉毀損が問題になった事件で、最高裁は大事な考え方を2つ示しています。
月刊ペン事件(最高裁昭和56年4月16日第一小法廷判決・刑集35巻3号84頁)
- 事件番号
- 昭和55年(あ)第273号
- どんな事件か
- 月刊誌の編集局長が、ある宗教団体の会長(当時)の私生活を記事にし、名誉毀損罪に問われた事件です。第一審と控訴審は有罪としましたが、最高裁は職権で原判決と第一審判決を破棄し、東京地方裁判所に差し戻しました。
- 裁判要旨
- 「私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合がある。」
- 読んで思ったこと
- 会社を通じて社会に影響を与える人物について報じることは、この考え方のもとで「公共の利害に関する事実」として扱われる余地があります。ここまでは、報じる側の自由を支える考え方です。
- 判決
- 裁判所ウェブサイト(判決の詳細ページ)
夕刊和歌山時事事件(最高裁昭和44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁)
- 事件番号
- 昭和41年(あ)第2472号
- どんな事件か
- 地方紙の発行者が、別の新聞の関係者を批判する記事を載せ、名誉毀損罪に問われた事件です。最高裁は原判決と第一審判決を破棄し、和歌山地方裁判所に差し戻しました。
- 判決の一節
- 「たとい刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」
- 読んで思ったこと
- 真実だと証明しきれなくても、確実な資料に照らして真実だと信じたことに相当の理由があれば、罪にはならない。これは刑法の条文そのものではなく、この最高裁判決が示した考え方です。
- 判決
- 裁判所ウェブサイト(判決の検索ページ)
2つを並べてみると、報じる自由は広く認められている一方で、その自由を支えるのは「確実な資料」だ、ということになります。
100件を超える裁判を戦ってきた編集長ほど、このことを身にしみてわかっている人はいないはずです。だからこそ、読者として思うことがあります。
それでも、山岡編集長を応援する
ここまで書いてきましたが、私は、エンパワーと青山清利氏の関係について、アクセスジャーナルの報道が正しいとも、間違っているとも判断していません。会社のホームページから私にわかったのは役員の顔ぶれまでで、株主が誰かは、一読者の私には確かめようがなかったからです。
だから、読者として思うことは一つだけです。
「断定はできない」という前置きは、編集長の誠実さの表れだと思います。そして、その前置きの先で踏み込む記事を支えるのは、確実な資料です。重い話であればあるほど、確実な資料に支えられた記事を、読者として読みたいと思っています。
これは、以前和歌山カレー事件は冤罪かの記事で書いたのと同じ気持ちです。疑問を投げ続ける人を応援しながら、その疑問がどんな材料に支えられているのかも、きちんと見ていたいのです。
編集長、これからも書き続けてください。私も読み続けます。
